第20回シーフードショー大阪「ハラルビジネス特別セミナー」ダイジェストレポート
令和5年2月23日、第20回シーフードショー大阪にて「ハラルビジネス特別セミナー」が開催されました。本セミナーは、今後拡大するイスラム市場に対するハラルフードの可能性と水産業界のハラルビジネスをインバウンドとアウトバウンドの両方の視点で業界の先駆者の事例を交えて学んでいただける内容になっています。
第一部 食の多様性ラウンドテーブル(FDRT)が考える「関西の国際観光都市の可能性と課題」
講 師 公益社団法人 関西経済連合会 国際部アジアビジネス創出プラットフォーム室 参事 中西 康真 氏
講 師 関西経済連合会 アジアビジネス創出プラットフォーム観光部会プロジェクトマネージャー 食の多様性推進ラウンドテーブル 事務局 株式会社JTB 中川 康一 氏 |
◆関西経済連合会の概要
関西経済連合会は1946年設立された経済団体。大阪に拠点をもち現在、会員企業1,300社で構成されています。具体的には経済の活性化に向けたビジョンとロードマップの策定。その実現に向けた働きかけ、アジアを中心としたグローバルな交流などの役割・使命を担っています。
◆「関西ビジョン2030」先駆ける関西、ファーストペンギンの心意気
コンセプトは集団で行動する群れから先駆けて飛び立つファーストペンギンの心意気。先駆けて取り組む企業やヒトを惹きつけ・育むことで新たな価値を生み出す地域となることを目指します。
関経連の取り組みの方向性「7本の矢」で、日本の経済を活性化につなげること。食の取り組みはアジア・ビジネスプラットホームからスタートしました。ASEANの7ヵ国の経済団体と協力し、それぞれの企業・団体間における人材、技術、サービス等の連携で新たなビジネスの創出、経済活性化に繋げる狙いがあります。テーマ別部会の観光分野では、JTBと協力しムスリム旅行者の快適な旅行環境の整備、ハラル対応の推進を行っていました。アウトバウンドでは、ミャンマーの魅力を日本国内にPRし旅行者の拡大に向けた取り組みを行ってきました。
◆コロナ収束後に向けた検討~食の多様性推進ラウンドテーブルの取り組み
世界には多様な人々が暮らしています。ムスリム、ベジタリアン・ヴィーガン、食物アレルギーなど、食に関するお悩みは人それぞれ。食全般の取り組みで何かできることはないか。2025年の夢州の関西万博では海外から350万人のお客様が来られる。旅行も食事も楽しんでいただけるような環境整備が必要であることから、「食の多様性推進ラウンドテーブル」が設立されました。JTB様、YRK and様を座長に、現在28社の団体に加入いただいています。要となる「情報発信」「環境整備」「新規市場開拓」3つの方向性。
◆ラウンドテーブルの今後の取り組み
外国人観光客が日本の食事を安心して楽しんでいただけるように、食材ピクトグラムとオンラインマップをセットにした事業で食事の表示を改善する活動を推進しています。
①食材ピクトグラム、オンラインマップの拡大
②外国人観光客へのPR
③新メニュー開発、「食の多様性」体験会の実施
コロナ禍の3年間、私たち観光業も含め非常に苦しい時代を乗り切ってきました。私はJTBという会社に所属しておりまして国土交通省や日本政府観光局ともお話しをする機会も多く、皆様に情報を少しでもお持ち帰りいただけたらと思っています。2019年は3,188万人の外国人の方々が訪日されています。その内訳は東アジアと言われている韓国・中国・台湾・香港が7割近く占めていました。ただ私たちが注目したのは2018年から2019年の1年間で増えている地域がありました。それは東南アジア+インドという地域で2018年は全体のたった11%だったものが2019年は12.6%に増えています。
関西(日本)は、国際観光都市になる可能性は?
⇒可能性はあります!観光・レジャー目的では大阪府が行ってみたい観光地1位。
世界人口の4分の1=約19億人へのアプローチこそが国際観光都市への可能性を開きます。
第ニ部 ドン・キホーテの海外戦略と日本のハラル水産品と加工品について
講 師 PAN PACIFIC RETAIL MANAGEMENT(MALAYSIA) SDN.BHD取締役 福田 貴史 氏 |
「JONETZ BY DON DON DONKI」から見るマレーシア市場とハラル商品
◆マレーシアの特性
マレーシアの面積はほぼ日本と同じ。日本の面積の約90%くらいですが、人口は3,260万人と日本の4分の1から3分の1です。
民族属性はマレー系68.8%、華人23.2%、インド系7%で、マレー系が約70%を占めています。宗教はイスラム教が61%、仏教が20%、キリスト教が9%、ヒンドゥー教が6%と続きます。やはりイスラム教が多いのでハラルが重要になってきます。
マレーシアの平均年齢は28.3歳と若く、ここ20年くらいで1,000万人増えています。私も2年くらい住んでみてこれから勢いが伸びてくる国であると実感しています。
◆日本のドンキとの違い
アジアではシンガポール、タイ、香港、マカオ、台湾、マレーシアに展開しています。日本のドン・キホーテは食料品、日用品、家電、ブランド品など何でも揃っていますが、海外では生鮮食品を含めた食料品がメインだということです。マレーシアでは現在3店舗展開していて、2021年3月にオープンしたロット店はクアラルンプールの中心地にあるお店で日本だと銀座と渋谷を掛け合わせたような場所です。ローカルの商品は一切無く、日本のスペシャリティ商品、Made by Japan、日本の商品しか取り扱いしていません。
2号店のトロピカーナガーデンズモールは2021年12月にオープンした面積の大きいお店で、はじめてハラルコーナーを作った店舗です。3号店のサンウェイピラミッド店は2022年11月にオープンした非常に有名で大きなモールにあるお店です。
◆マレーシア店の年間販売実績
青果では焼きいもが1位。日本でも人気ですがアジア各国でも共通して人気。2位はいちご、3位はりんごジュース、日本のフルーツが人気です。
鮮魚では握りセットが1位。マレーシアでもお寿司が人気です。これまでローカライズされていた寿司が本場の寿司だと思われてきましたが、その概念を変えたいという思いがありました。2位はサーモン握り8カン、3位は明太マヨサーモン8カン。東南アジア共通してサーモンが人気です。精肉は和牛が人気です。デリカはオムソバ、うな重などが売れ筋です。
◆人気フルーツの販売方法
いちごは1パック安くても65リンギット(約2,000円弱)と手が出しにくい金額なので、青果コーナーでは一部の商品を小分けして、お客様がお買い求めしやすいように販売。また、自治体と協力し日本各地の旬を提供するフェアを開催しています。
◆ハラル認証品500アイテムの特設コーナー
2号店では日本のハラル認証商品を揃えた特設コーナーを設置しました。しかしながらマレーシア人口61%のお客様(ムスリム)に対してチャンスロスがおきている。課題としては
✓まだまだ日本のハラル認証商品が少ない
✓ノンポーク・ノンアルコールでは訴求力が弱い
◆現地で人気商品になる3つの条件
1.断食⇒手軽に食べられる商品
2.商品説明⇒認知度の低い日本の商品の付加価値を伝えるJONETZ
3.SNS発信⇒より広範囲への周知
◆「鮮選寿司」マレーシア初上陸
回転ずしの感覚で本格的な寿司が食べられることをコンセプトにマレーシアでも展開。あなごのたれもハラル認証を取得したものを使用。生ものが苦手な方もいるので炙りの寿司も充実。アルコール不使用の赤酢や冨田精米のお米など、日本のよい食材を使用しているこだわりを伝える。
◆ハラル認証製品で人気があるもの
●八天堂のハラル認証くりーむパンは2022年5月から販売開始で販売累計数17万個‼
●「うなぎの蒲焼」年間売り上げ4割はハラル認証品
●鮭の皮を使用した「サーモンチップス」
●ムスリムの意見を反映した「魚肉ソーセージ」
●雪見だいふくのようなアイスクリーム「MOCHI MOCHI」
●SNSで告知して行列ができるようになった「和牛串」
さらに販促動画で食べ方を説明。ハラル市場の成長は今後も見込まれる市場です。
<最後に>
マレーシアという初のイスラム圏への出店に伴い、ハラル商品開発はアジア・中東などイスラム市場にリーチするための第一歩となります。我々PPIHと一緒に日本産ハラル商品をムスリムのお客様に届けましょう!
第三部 水産業界のハラルビジネス戦略① 「ハラル認証を活用した海外戦略」
講 師 NPO法人日本ハラール協会 理事長 レモン 史視氏 |
コロナ禍で外国人観光客がいなくなり、観光業をはじめ様々な業界がインバウンドだけに頼っていたらこんなことになるのかと怖い思いをされたと思います。マレーシアのドンドンドンキのお話しがありましたが、弊会のハラール認証企業もこれからはマレーシアや東南アジアを越えて中東にも需要が増えてくるのではないかと肌で感じています。
例えば機能性食品の原料を日本の企業が製造して各国に輸出する。今一番需要が多いのが食品の原料のハラール認証取得です。今日はハラール認証について簡単にお話しします。
◆イスラームってなに
イスラームでは、唯一の神(アッラー)が宇宙を含む全ての創造主であることを信じています。
許されているものごとをアラビア語で「ハラール」といって、禁じられているものごとを「ハラーム」といいます。ムスリムの生活全般においてハラールとハラームがあります。
食生活に関しても食べてはならないものがあります。豚やお酒はハラーム。イスラム法に則って屠畜した鶏肉・羊肉・牛肉などは食べることができます。
◆ハラール認証について
ハラール認証は、イスラーム圏を中心に消費者へ安心を示すツール。世界各国様々なロゴがありますが、大体は真ん中にアラビア語でハラールと書いてあります。ハラール認証の取得は、事前審査⇒書類監査⇒現地監査⇒判定⇒認証書発行という流れになります。
ハラール管理システムで商品のハラール性を損なわないように管理できて、ハラール認証を取得することができます。
◆ハラール産業~消費者ニーズの移行
最近は消費者の若年層が増えてきていることから、食品だけではなく化粧品、サプリ、ファッション、結婚相手を探すマッチングアプリにもハラール性を求める需要が出てきています。
<最後に>
ハラール認証は消費者にとっては安心マーク。企業にとってはマーケティングツールであり、取得すれば売れるというような幻のマークではありません。有効に活用するには、必要なのか必要でないのかしっかりと見極めていただきたい。ハラール産業はムスリム限定のサービスではありません。既存の顧客+ムスリム顧客を取り込むプラスアルファの市場であるということです。
第四部 水産業界のハラルビジネス戦略② 「日本の水産のハラルビジネス戦略」
講師 一般社団法人ハラル・ジャパン協会 代表理事 佐久間 朋宏 氏 |
◆なぜ水産品にハラル認証が必要なのか?
日本はイスラム教の国ではない。日本の原料でハラル製品を作るときなど、エビデンスとして原料のハラル認証を求められるようになってきた。
◆ハラル認証について
ハラル認証は国際認証ですが、世界統一基準がありません。目的に合わせて団体を選んだり、違う団体への切り替えもできます。
イスラム教徒にとっての安心・安全マーク。誰かがチェックしているJISマークやJASマークのような考え方です。
ハラル認証を取ってから売り先を探さないでください。どこで作ってどこで売るのかを仕分けしましょう。
◆認証は複数の時代へ
日本のメーカーにもISO 、 HACCP✙α でハラル認証等が必要な時代が到来しつつあります。重要なことはイスラム教徒専用食を作らない。日本のメーカーでも複数認証の商品が増えてきました。ハラル認証マークがB to B、B to Cにも必要になってくる。
◆輸出とインバウンドを分ける
輸出とインバウンドは同時に対応できないことが多い。
国内はバイヤーが嫌がったりハラルを知らないこともあり、ハラルハラルしない方がいい場合がある。
海外はバイヤーやお客さんがハラルやヴィーガンを求めているエリアがある。そのため商談でハラルなのかをはっきりとさせるといい。また、ハラール認証以前に商品は輸入規制上、当該国に輸出が可能か?
◆ハラル・ジャパン協会とは
一般会員 約 150 社(特別会員含む)・情報会員:約 26000 人(約 9500 社・団体)のハラルビジネスのマーケティング支援団体です。ハラル認証団体ではないため、中立的な立場でハラルビジネスのコンサルティングができます。
ハラルセミナー・企業研修などの教育
社内研修、商工会、銀行、展示会など全国各地で講演をお引き受けして います。また、ハラルビジネスの全体像を学ぶビジネス講座等も 行います。
イスラム市場調査・PR 活動やマーケティング支援
在日ムスリムによる試食調査、体験モニター、海外アンケート等の調査、マーケティング、商品開発、国内外への広報 PR などそれぞれの企業様の目的に応じたお手伝いをいたします。
輸出・進出・認証取得サポート
国内外のハラール認証取得のサポートや海外進出のサポートを致します。
第五部 水産品のハラル活用例
講 師 FGROW JAPAN株式会社(新)株式会社 藪水産(旧) 代表取締役 船田 裕亮 氏
講 師 有限会社 大橋水産 専務取締役 大橋 昇平 氏 |
◆FGROW JAPAN株式会社について
これから日本の水産業界が成長できるチャンスをお話しできたらと思います。FGROW JAPAN株式会社はどんな会社かといいますと、水産物を中心とした惣菜製造業。お寿司のネタを作ったり、ご飯のキット、海老の加工が弊社の強みなのでD2Cブランド、海老専門店「海老乃家」という通販事業があります。捨てられる海老の殻を活用したOUTDOORブランドコラボ海老のソース販売。海老の陸上養殖。電力も炭素を出さないようなRE100を採用しSDGsなどにも貢献しています。
◆水産業界の問題
国内水産資源の枯渇。日本の水産資源も獲れていませんよね。水産物の世界需要は上がっています。また、人口の増加でタンパク質不足になると言われていて、肉よりは魚のほうが環境にもよいとされ、しかも低脂肪・高タンパクだと富裕層から選ばれています。円安による輸入難、魚食国内市場衰退。
◆【目標】日本国内&グローバルで活躍できるようになる
日本食産業を世界のスタンダードにする戦略。日本食は世界でも認められている。世界に日本食をお届けする方法として認証を取得する。弊社も去年の11月にハラル認証を取得し、色々なマーケットにお届けできるように進めている。マレーシアのマーケットに出るならハラルが必要。
◆持続可能な仕組みをつくる
資源を国内で作っていくことが大事ですよね。外貨を稼ぐことで適切な対価を受け取る。そして企業は分配・還元・投資ができます。それによって所得がアップして福利厚生が充実します。海外の外資に負けないような待遇など持続可能な仕組みができると思っています。世界の水産物の市場はまだまだ伸びると予想されているので、仕組みを作る大きなチャンスです。
<最後に>
みんなで共創し、グローバル市場でも活躍する事で持続可能な人が幸せになる仕組みを一緒に創りましょう。
◆大橋水産について
1950年代より日高昆布を取り扱いしています。ハラル認証を取得した経緯は、簡単に出汁がとれる顆粒出汁や液体調味料などの進化で年々、昆布や鰹節などの売り上げが下がってきました。昆布は薄利多売で競争率が高く、物価高にも対応の限界が見えてきている。そこで2021年より海外販路を模索した結果、「ハラル認証」というものを知りハラル認証工場として認証を取得しました。海外では日本で売る2倍から3倍の値段。
◆世界での昆布の現状
●中国ではコンブ漁が行われており、昆布の一口巻きなど多くの加工食品として流通しておりますが、出汁の量であったり質は日本国内(北海道で採れる)の昆布のほうがうまみ成分や栄養価が高く多くの国の郷土料理にもご活用できると考えられている。
●現状では「だし」の文化がまだ広まっていないが、需要は少しずつ伸びている。
●ハラル認証を取得したことにより、新たに国内外からのお問い合わせが増加している。その結果、ハラル認証以外の商品も海外での販路が見出せるようになった。また、同じ商品でもハラル認証があることでブランド化、差別化でき、海外では競争率がかなり低い。
●健康食品に近い形で認知していただきながら簡単で美味しく召し上がっていただくことを目指す。
●ビーガンやベジタリアンの方々にも需要がある。
●ふりかけやおやつ昆布など、簡単に食べられるもののほうが需要がある。
●他社と協力して新たな商品開発をしながら販路を拡大していくことで今後更に売り上げを伸ばしていく方針。
<最後に>
海外で実績を作ったことが、国内にも広がり相乗効果が生まれている。新しい世界に目を向けるきっかけになる認証だと思っています。