マレーシア進出のリアル戦略とは?イスラム教多民族社会をどう攻略するか (マレーシアレポート4/4)
マレーシア・クアラルンプールで開催された「MIHAS(Malaysia International Halal Showcase)」は、世界最大級のハラル展示会のひとつです。今年度2025年は9月17〜20日の4日間開催されました。
その間の市中視察を踏まえ、今回は進出戦略についてお伝えします。
マレーシアは「東南アジアのハブ」と呼ばれ、ASEAN全体への輸出拠点としても注目を集めています。国教はイスラム教ですが、中華系、インド系を含む多民族国家であり、それぞれの食文化や嗜好が市場の中で複雑に混じり合っています。この独特な環境が、日本企業にとってはチャンスであり、同時にハードルにもなります。

街を歩くと、多言語の看板が目に入ります。マレー語に加えて英語、中国語(簡体字・繁体字)、タミル語、そしてたまにアラビア語まで飛び交い、ショッピングモールのフードコートではハラルレストランとノンハラルレストランが隣り合って営業しています。富裕層の中華系などは、アルコールや豚肉を扱う高級レストランを日常的に利用し、イスラム教徒のマレー系は当然ながらハラルを重視する。この「二重構造」が、マレーシア市場の特徴です。
日本企業がマレーシアに進出する際、最も理想的なのはもちろんハラル認証の取得です。特にマレーシアのJAKIM認証は国際的な信頼性が高く、認証を取得すれば周辺のイスラム市場にも広がる大きなメリットがあります。しかし、すべての商品で完全なハラル化を実現することは、現実的には難しい場合もあります。

例えば、調味料や飲料にアルコールが含まれていたり、豚由来原料をどうしても避けられないといったケースもあります。しかしこうした場合に、「進出は不可能」と諦める必要はありません。むしろ、高級ショッピングモールでは多くの中華系・インバウンド旅行者賑わって中華系や富裕層をターゲットにする戦略を取ることで、十分に成功できる可能性があります。高級ショッピングモールでは中華系・インバウンド旅行者で多く賑わっています。
ただその際にも、商品の成分開示を明確にし、「どこまでが対応可能か」を示すことが重要です。

実際に、弊会では一次原材料のみを対象にハラル性を確認した推奨マークを提供しています。完全なハラル認証を取らなくても、一定の成分的安全性を証明できることで、イスラム教徒にも説明責任を果たしつつ、中華系・インバウンド旅行者市場にも対応できる。この「中間解決策」を活用することで、日本企業の選択肢は大きく広がります。

さらに戦略的に考えると、マレーシアで成功している海外ブランドの多くは、「二層ターゲット」戦略を取っています。ひとつはイスラム教徒向けにハラル対応を前面に押し出した商品ライン、もうひとつは中華系・ノンハラル市場に向けた商品ライン。この二本立てでブランドを展開することで、マレーシア全体を効率的にカバーしているのです。
展示会MIHASでもその構造は明確に見えました。来場者の中には「ハラル認証を持っているか?」と真っ先に聞くインドネシアやマレー系バイヤーもいれば、「デザインや味の独自性」を重視する海外系バイヤーも多く、商談の切り口は相手次第でまったく変わってきます。日本企業に求められるのは、「誰に売るのか」を明確にし、それに応じた対応策を用意しておくことです。
例えば、同じお菓子でも「ハラル認証取得済み」と打ち出せばイスラム市場向けに安心感を提供できますし、「日本らしいデザイン性」や「ユニークなフレーバー」を強調すれば、他海外市場に訴求できます。ポイントは「全員に同じものを売る」のではなく、セグメントごとに戦略を切り替える柔軟性にあります。
そうした柔軟な対応が求められるマレーシア進出の難しさは、逆に言えば、日本企業の強みを活かせる舞台でもあります。繊細な味づくり、安心安全な品質、パッケージデザイン力——これらはどの民族にも共通して評価されやすい要素です。そのうえで、宗教的・文化的な制約をどう回避または対応するかを設計することが、成功への鍵になります。
マレーシアはASEAN全体に広がるための「入り口市場」です。ここでの戦略を誤れば周辺国にも進出しにくくなりますが、逆にうまく対応できれば一気にイスラム市場全体へと広がるチャンスをつかめます。弊会では、ハラル認証の取得支援から、推奨マークの活用、ターゲット別の市場戦略まで実務的にご相談いただけます。マレーシア進出や他東南アジアイスラム市場をお考えの企業様は、ぜひハラル・ジャパン協会までお問い合わせください。
文責
ハラル・ジャパン協会
ハラルビジネスコンサルタント 田上明日菜






























