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ハラル食市場30兆円。動き出した巨大イスラム市場

2012.10.10
最新ハラルニュース

経済と市場が急成長しているアセアン諸国。域内人口は6億人を突破し、約5億人のEUをしのぐほどになっている。その中でも、いま注目を集めているのがシンガポールとマレーシア、インドネシアの3カ国。共通する特徴はイスラム教徒(ムスリム)の多い国であることだ。

イスラム教徒はアセアン以外ではインドやバングラディッシュ、パキスタンなどの南アジア、アラブ等の中東、アフリカなど広範囲に居住しており、2011年時点での人口は世界中で19億人にも達している。これは世界人口70億人の27%、すなわち世界の人の4人に1人以上がイスラム教徒ということになる。 これまでイスラム諸国は欧米やわが国などの先進諸国から経済力や製造力などが大きく遅れていたが、ここ数年間で技術力、経済力が急拡大している。また人口も急増しており、消費市場として世界経済上で大きな位置を占めるようになってきた。
実際、マレーシアやインドネシアは自動車や家電製品など工業製品の生産拠点として、多くの企業が進出し、各国の都市部の発展は目を見張るほどだ。

また、これらの国の中には親日感情が強く、日本製品を好んで購入する傾向がある。実際、クアラルンプールやジャカルタの街中には寿司やラーメンなどの日本の料理を扱う店が多く、直輸入された日本の食品もスーパーやショッピングセンターに並び、高い価格帯であるにもかかわらず、売れ行きは順調だ。

「アセアンの優等生」と呼ばれ、シンガポールに次いで早く経済成長を遂げたのがマレーシア。1人当たりGDPは今年1万ドルを超えたと見られ、2009年には25%だった富裕層が、2015年には約半数を占めるようになると予想されている(下図2を参照)。米国ウオールストリート紙は過去18ヶ月でマレーシアの億万長者の数がほぼ倍になったと発表。こうした傾向はまだまだ続き、アセアンをけん引していくのは間違いない。

一方、アセアン加盟10カ国の中で人口が2億4000万人と最も多いインドネシアは現時点では富裕層は人口のごく一部でしかない。ところが、2020年には5.8%を占めるまでに増え、その数は1500万人にもなる。それ以上に魅力的なのは3年後の2015年には国民の73%にあたる1億7000万人が中間所得層以上になると推計されている(下図3を参照)。

「高所得のムスリム」が急増

いま、この2カ国では、所得の上昇と生活水準の向上によって、市場ニーズ自体が急激に変化している。ひとつは日本食の市場拡大だ。

実際にマレーシアの大規模ショッピングセンター「PAVILION」に東京ストリートという名のフロアがあり、日本関連商品が多く並んでいる。その横にある「らーめん山頭火」には常に行列が出来、“100円ショップ”のダイソーには大勢の人が押し寄せている。また、街中にはイオンなど日本系列のスーパーもあり、ラーメンや回転寿司、牛丼などの店には行列ができるほどだ。つまり日本の食がブームになってきている。

これらの日本の食品は地元食品や、中国や韓国からの輸入商品と比較すると価格が高い。そのため、日本の食品を購入できるのはこれまでは一部の富裕層に限定されてしまっていた。ところが、この富裕層は中華系の人が多くを占めていたために、これまではイスラム教徒を意識していなくてもよかった。つまり、日本の商品をそのまま流通させればよかったのだ。

ところが、いまマレー系の住民で富裕層やアッパーミドルが急増してきている。マレー系の人々はイスラム教である割合が圧倒的に高い。つまり、いま新たに「高所得のムスリム」という市場が誕生しているということになる。

イスラムの教えは、日本料理に通じる

イスラム教では豚やアルコールなどハラーム(不浄)とされるものを口にすることが禁じられている。また、牛肉や鶏肉もルールに従ってと殺処理されたものでなければならない。そのため、流通する食品には「ハラル(不浄じゃない)」であるという証明が必要となる。
つまり、ムスリムの多い国に食品などを輸出したり、飲食店の展開を行おうとした場合には、「ハラル」に準じていることが重視される。東南アジア諸国の経済と市場が成長してきたからこそ、「ハラル」の重要性が高まっているということだ。逆に、ハラルへの対応が不十分であれば、農水産物や食品の輸出においては、大きな障壁となっている。

一見、宗教に基づいたこれらの規律には、なかなか対応できないように感じられるが、その原理は聖典クルアーンの中で神が人類に対し、「合法にして、清潔、清浄、健康的で環境保全である善い食べ物」の摂取を命じているものである。
この考えは、実は日本の食文化に通じるものである。日本の食は世界で最も清潔で、健康的で、環境に配慮しているもの。さらにこれらの国々が親日であることを加味すれば、日本の食がインドネシアとマレーシア市場に受け入れられる可能性は大いにある。

さて、経済のグローバル化が進む中で、ムスリムにとってハラルではない商品が混在しはじめてしまい、その生活の安全性が揺るがされることへの不安が高まったため、マレーシアではマレーシア連邦政府総理府イスラーム開発庁(JAKIM)を創設し、 1975年に世界に先駆けて食品流通法に「ハラル条項」を追加し、食品等がハラルであることを認証する制度を設けた。ハラル認証の申請を希望する製造業者には認証ガイドラインを発行し、それに準拠することを促した。その上で、1982 年にはマレーシアに輸入されるすべての食肉はハラル認証を取得していなければならないという方針を打ち出したのだ。
現在、JAKIMとハラル工業開発公社(HDC)とが協力し合い、また海外のハラル認証団体との提携を強化することで、マレーシアハラルを世界基準にしようと取り組む一方で、マレーシアをイスラム諸国への食品工業の製造拠点(ハブ)としての位置づけにしようともくろんでいる。つまり、マレーシアはハラルによって国内産業の活性化に結び付けようと考えているのだ。

一方、トルコやインドネシアなど他国でも政府や宗教法人などが中心となり、相次いでハラル認証制度が誕生。ハラル市場の覇権争いの様相だ。
ムスリムはなにもインドネシアとマレーシアだけにいるわけではない。アセアン諸国の中では、フィリピンには約500万人、タイには300万人、ミャンマーには200万人のムスリムがいることになる。例えばタイには独自のハラル認証が存在しているように、各国に独自の認証が存在している。

その他にも、ヒンドゥー教が多いインドには人口の13.4%にあたる1億6000万人がムスリムだ。その隣接国であるパキスタンとバングラディッシュは人口の大半がムスリムであり、それぞれ1億5000万人を超えるムスリムが生活している。
さらに、中国には2200万人が河南省や河北省、山東省、甘粛省など広範囲に居住している。

ハラルは20億人へのパスポート

フィリピンには約500万人のムスリムがおり、東南アジア全体ではムスリム人口は7億5000万人にもなる。
中東・西アジアにはイスラム国家が多く、トルコには7400万人、イランにも7400万人がいるほか、イラク、アフガニスタン、サウジアラビア、シリア、イエメンの各国にそれぞれ2000万人を超えるムスリムがおり、西アジア全体では3億人を上回る。

アジア以外ではアフリカには5億人超、ウズベキスタンなど旧ソ連とヨーロッパで計約1億人など、世界全体では2011年時点で約19億人のムスリムが いるとみられている。そしてその人口は確実に増加しており、2012年には20億人を超えると見られている。つまり、世界中には20億人のムスリムがおり、そのうちの3分の1以上が東南アジアに集まっていることになる。また、世界中で最もムスリム人口が多いのがインドネシアであり、全ムスリムの1割を占めているわけだ。

つまり、マレーシアとインドネシアの市場は単独ではない。東南アジアに住む7.5億人への入口となり、さらに世界中にいる20億人のムスリムというイスラム市場へと展開するシナリオが生まれることを意味している。
つまり、 「ハラル」は、マレーシアとインドネシアからつながる世界中の20億人へのパスポートになりうるということなのだ。 (田中)

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