香港でムスリム人口がじわり増加? “アジアの交差点”が示すムスリム市場と、日本が学べること
香港は昔から多文化が混じり合う都市ですが、近年はムスリム関連の存在感が目に見えて高まっています。ニュースで取り上げられる「人口増加」というよりは、街にいるムスリムの“層”が厚くなっているという表現が近いでしょう。
その背景には、5つの層が重なり合う香港ならではの構造があります。
①旅行客(観光・買物・食)
中東、マレーシア、インドネシアからの渡航はコロナ後に早く回復し、香港は“食べやすく滞在しやすい都市”として再び選ばれています。街中には、尖沙咀や銅鑼湾など主要エリアを中心にハラルレストランが点在し、九龍モスク周辺にはハラル食材店や案内表示も多く見られます。また、空港や大型商業施設には礼拝室が整備され、
旅行者が困らずに過ごせる環境が整いつつあります。例えば、九龍モスクの向かいにあるKFCはハラル認証を取得しています。

②バイヤー・商談で訪れる短期ビジネス層
広州や深圳、義烏など中国本土へのゲートウェイとして、香港は今も“買付のハブ”として機能しています。HKTDCの展示会や中国本土の商談に合わせて、中東やASEANからムスリムバイヤーが滞在するケースも多く、街中のハラル飲食店や礼拝スペースが利用される機会も確実に増えています。
③駐在のビジネスパーソン(中東系企業・南アジア系企業など)
香港には、金融・物流・貿易分野で働くムスリム駐在員が一定数おり、家族帯同で暮らすケースも見られます。生活の拠点としてモスクやコミュニティセンターがあり、現地のムスリムの方に活用されています。ハラル食材店や南アジア系の飲食店を日常的に利用する家庭も少なくありません。
週末になると、子どもをモスクの教育クラスへ通わせる家庭もあり、香港滞在中、家族で出かけるムスリムの方々を見かける場面もありました。

④インドネシア人を中心とした家事労働者
香港には多くの外国人家事労働者が住み込みで働いており、そのうちインドネシアなど東南アジア出身者が一定数を占めています。休日になると、Victoria Park やモスク周辺で友人と集まり、食事や会話を楽しむ姿も見られ、こうした風景は香港の多様な社会の一部となっています。
⑤旧来からの南アジア系コミュニティ(パキスタン・インド・バングラデシュ)
香港には、19世紀の英国統治期から続く南アジア系ムスリムコミュニティがあります。インドやパキスタン、バングラデシュから移住した商人・軍人・警察官がモスクを中心に生活基盤を築き、宗教教育やコミュニティ支援のネットワークが発展してきました。現在でも、九龍や中環を中心に小規模ハラルショップや食材店が点在し、彼らの日常生活を支えています。
これら5つの層が重なり合うことで、香港のムスリム市場は“点”ではなく、”面としての市場”を形成しています。
旅行客だけではなく、生活者がいることで需要が安定し、店舗や施設側も自然と対応が進む、この点が日本との大きな違いです。

では、このような香港から日本は何を学べるでしょうか。
ひとつは、旅行客対応だけではムスリム市場は成熟しないということです。生活者が存在する都市では、モスク周辺の小規模ハラルショップや食材表示、商業施設の礼拝スペースなど、日常レベルのサービスが整っており、それが旅行客の満足度向上にもつながります。
もうひとつは、大規模投資よりも小さな取り組みの積み重ねが効果を生む点です。香港のハラル対応は、生活者のニーズに基づいた実務的な対応が多く、訪日ムスリム向けにも参考になります。礼拝への配慮や食材情報の明確化、コミュニティ連携など、日本でもすぐに取り組めることが少なくありません。
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文責
ハラル・ジャパン協会
ハラルビジネスコンサルタント 田上明日菜






























